「騒音計で測ってみたのに、ほとんど反応しないんです。」
低周波音のご相談では、こうしたお話を何度も伺います。
でも実際には、音(というより圧迫感のようなもの)が確かにある。
同じ音なのに、なぜ数字に出ないのでしょうか。
結論から言うと、騒音レベルは、人が聞こえやすい音に合わせて作られた“数字”だからです。
そのため、人には聞こえにくい低周波音の成分は、表示に出にくくなります。
これが、一般的な騒音計(騒音レベル)で低周波音をつかみにくい主な理由です。
「音」ってなに?
私たちの身の回りには、さまざまな音が常にあります。
人の声、音楽、鳥の鳴き声、風の音。
こうした振動が耳に届き、私たちはそれを「音」として感じています。
この「音」には、心地よいと感じるものもあれば、不快に感じるものもあります。
ただ、その感じ方は音の種類だけで決まるものではなく、人や状況によって変わります。
「騒音レベル」ってなに?
騒音は、「不快な音」「心地よくない音」「邪魔な音」など、人が不快感をおぼえる音の総称です。
ただし、何を不快に感じるかは人それぞれです。
例えば、自動車の排気音は「騒音」と思われがちですが、この音を好む人もいます。
また、小川のせせらぎは、心地よいイメージを表す音の代表格の一つだと思いますが、
ふだん聞きなれない人にとっては、うるさい・不快と感じる事もあります。
このように、状況や立場、趣向などによって感じ方が違う音を、
共通の“数字”で比べるために使われているのが「騒音レベル」です。
人の耳は、すべての音を同じように感じ取れるわけではありません。
犬や猫は、人には聞こえない高い音まで聞き取っているそうですし、
コウモリはさらに高い音を感じると言われています。
そこで、私たち人の聞こえ方に合わせて調整した数字、として表したものが「騒音レベル」なのです。
「低周波音」ってなに?
音には、私たちが聞き取りやすい音もあれば、聞き取りにくい音もあります。
例えば、動物の中には、私たちには聞こえない高い音まで聞き取れるものがいます。
この、人間には聞き取れない高い音を「超音波」といいます。
同じように、私たち人間には聞き取りにくい“低い音”があり、
その領域の一つが「低周波音」です。
これらの音は、特定の周波数で突然聞こえなくなるわけではなく、
だんだん聞こえにくく(感じにくく)なっていきます。
その、徐々に聞こえにくくなっていく過程で、
感じやすい人と、感じにくい人が出てきます。
低周波音は、耳でははっきり聞こえなくても、胸の圧迫感のように感じることがあります。
また、睡眠の妨げやイライラ、頭痛、吐き気などとの関連が指摘されており、
環境省の資料などでも紹介されています。
(環境省「低周波音について」)
なぜ騒音計の数字に低周波音が出ないの?
ここまでのお話をまとめると、一般的な騒音計の「騒音レベル」は、
人が聞こえやすい音に合わせて作られた数字です。
そのため、低周波音の成分は、表示に出にくくなります。
したがって、低周波音の成分が多い音を騒音計で測ろうとすると、
「確かに音(圧迫感)はあるのに、数値がほとんど動かない」
ということが起こります。
言いかえると、音はあるはずなのに、騒音計には出てこない。
その“出てこない部分”が、低周波音の特徴でもあります。
「低周波音」の見過ごされやすい影響
低周波音は、どこにでもある音で、日常の中にもふつうに存在しています。
そのため、「低周波音がある/ない」で判断するのではなく、
騒音レベルと同じように、低周波音の“大きさ”で見ていく必要があります。
その目安として、環境省が示しているのが
「低周波音による心身に係る苦情に関する参照値」です。
長いので、ここでは「心身苦情の参照値」と呼びます。
低周波音で厄介なのは、感じ方に個人差が大きいことです。
心身苦情の参照値は、「長時間続く低周波音に対して、大部分の人が許容できる最大のレベル」として示されています。
一方で、測定値が参照値未満であっても、低周波音を感じる人がいることも指摘されています。
その結果、ほとんどの人は気にならないのに、
一部の人にとっては「非常に不快で耐え難い」と感じることが起こります。
この“差”が、低周波音のつらさを周囲に理解されにくくし、
被害者への偏見や孤立につながってしまうことがあります。
この状況、何かに似ている
「低周波音」という言葉が少しずつ知られるようになる一方で、
低周波音そのものを否定する意見も見かけるようになりました。
低周波音は、どこにでもあり、私たちの身の回りに常に存在している音です。
そのため、感じない方にとっては、日常の中で問題として意識されにくいこともあります。
しかし一方で、低周波音を感じやすい人がいることも事実です。
そのことが、もっと知られてもよいのではないかと感じています。
これまで低周波音で苦しんでいる方々を見てきて、
私はこの状況が、気象病のように「つらさが理解されにくい」点で似ていると感じました。
(天気や気圧の変化で、頭痛やだるさなどの体調不良が起こるといわれるものです。)
気象病が広く知られるようになったのは、比較的最近のことです。
それまでは、「気のせい」や「体質」として片付けられていた時代もありました。
気象病のつらさは、実際に経験した人にしか分かりません。
一方で、経験のない人にとっては、その苦しさが想像しにくく、
「体質の問題」「気持ちの問題」と受け取られてしまうこともあります。
しかし近年では、少しずつ理解が進み、
周囲の人が配慮する場面も増えてきたのではないでしょうか。
今の低周波音の状況を見ていると、
気象病が認知される前の時代と、よく似ているように感じます。
低周波音という言葉自体は知られるようになってきましたが、
その実態やつらさは、まだ十分に理解されているとは言えません。
感じ方に個人差が大きいため、感じない人にはまったく分からない。
その結果、つらさが周囲に伝わらず、苦しんでいる人が孤立してしまうこともあります。
きっと、気象病が広く理解されるようになる前も、
同じような状況だったのではないでしょうか。
ただし、決定的な違いもあります。
気象病は自然現象である天候や気圧の変化がきっかけになりますが、
低周波音は、何らかの人為的な音が原因となっている点です。
そして低周波音は、天候の変化のように日々変動するものではありません。
原因を取り除かない限り、休まることなく続いてしまう現象なのです。
まとめ
低周波音は、圧迫感のように感じられたり、睡眠の妨げやイライラなど、
さまざまなつらさにつながることがあるとされています。
環境省の資料でも、低周波音に関する情報が数多く紹介されています。
中には、低周波音の調査先で、調査員が体調不良を訴えた事例が紹介されていることもあります。
調査員が体調を崩す程の低周波音
こうした状態が日常的に続くと、強いストレスとなり、生活や体調に大きな影響が出てしまうことがあります。
私自身、実際のご相談の中で、つらさが重なって日常生活が難しくなっていた方を見てきました。
低周波音は、感じない人にとっては分かりにくく、周囲に理解されにくいことがあります。
その結果、苦しんでいる方が孤立してしまうこともあります。
中には、ご自身の体調不良の原因が、低周波音であると認識していなかった例もありました。
測定の結果、参照値を大きく上回る状況が確認され、初めて「これが影響かもしれない」と分かったとき、
驚かれる一方で、「原因が見えた気がする」と安心された場面もありました。
低周波音は決して特別な音ではなく、どこにでも存在する音です。
そして、一般的な騒音計(騒音レベル)では、低周波音は測定できません。
それなのに、一定のレベルを超えると、人によっては心身に大きな負担を及ぼす可能性のある音です。
こうした低周波音の特徴を、多くの方に認知していただく事で、
低周波音で苦しむ方々の孤立を防ぐ一歩になればと願っています。