騒音計アプリの精度はどのくらいなのでしょうか。
スマートフォンの騒音計アプリは正確なのか、どのdBまで測定できるのか疑問に思う方も多いと思います。
私たちのような測定業者は騒音計アプリを毛嫌いしているように思われるときがあるのですが、そんなことは全く無くて、こういう精密機器を使用した仕事をしているからこそ、スマホなどの新しいガジェット系が大好きだったりします。
iPhon が日本で発売された当初から使っていますし、アップストアで騒音計アプリを見つけた時は、片っ端からインストールして遊んでいました。 もちろん、今でも新しいアプリを見つけると、その機能やUIに興味が尽きません。
そんな私が、環境計量士(騒音・振動)と言う立場から、騒音計アプリについてお話したいと思います。
騒音計アプリの精度はどのくらい?
最初に結論から申し上げますと、一般の方がご自身の為に使う用途であれば、十分な精度がある、と思います。
これは、弊所が所有している騒音計(計量法適合)と比較した様子なのですが、騒音計で 33.5dB に対し、騒音計アプリは 35.8dB を示しています。 しばらく様子を見ていたのですが、レベル変動はあるものの、両者のレベル差は概ね一定でした。

これは厳密な比較実験ではありませんが、通常の室内騒音を同じように測定すると、このくらいの差になる、と言えると思います。
どうでしょう。
思ったより精度が高いと思いませんか?
実のところ、私自身もこれ程精度が高いと思っていなかったので、この実験をしたときは驚いてしまいました。
何かの間違いかと思い、向きを変えたり音の種類を変えたり、環境音が静かになる遅い時間に比較したり、いろいろ試してみましたが、概ねレベル差は一定でした。
これ程疑ったのは、実は過去に多くのアプリを使った実験を行った事があり、その時の評価と随分違っていたからです。
騒音計アプリは正確?信頼できる?
最近の騒音計アプリが、とても高い精度である事に、私自身も驚きました。
それは、過去に多くのアプリを使った、計量法適合騒音計との比較実験を行った事があり、誤差の大きさを知っていたからです。
室内でスピーカーでノイズを発生させ、騒音計の指示値とアプリの指示値を比較したところ、ほとんどのアプリで以下の傾向が見られました。
| 計量法適合騒音計の指示値 | 騒音計アプリ |
| 90dB | ±1dB |
| 70dB | +1~ +4dB |
| 50dB | +2~ +6dB |
| 40dB | +2~ +6dB |
| 30dB | +2~ +8dB |
| 20dB | 30dB 以下にはならなかった |
アプリによりばらつきはあるものの、殆どのアプリが、大きな音に対しては申し分ない精度でした。
しかし、レベルが小さくなっていくと、だんだん誤差が大きくなり、30dB 台では 8dB もの差になるアプリもありました。
また、傾向としては、殆どの場合でプラス側に表示されるという事が分かりました。
このような傾向は、アマゾンで購入できる安価な騒音計でも見られる現象です。
一体何が原因なのでしょうか。
騒音計アプリに誤差が出る理由
これは推測なのですが、おそらく、アプリの問題ではなく、アプリをインストールしている機種との相性の問題が大きな要因であると考えています。
スマートフォンのマイクは、本来「音声を明瞭に伝える」ことを目的として設計されています。
そのため、
- 音声以外の雑音を抑える処理
- 通話品質を優先した特性
が組み込まれていることが一般的です。
結果として、アプリの性能が高くても、
測定できる下限はスマホ本体の特性に依存することになります。
また、スマートフォンのような電子機器には、機種固有の内部雑音があり、その内部雑音の影響がかなり大きいのではと考えられます。
スマートフォンには機種により固有の内部雑音がある
スマートフォンのような電子機器には、それぞれ固有の内部雑音があります。
この内部雑音の大きさによって、測定できる下限が決まってくると考えられます。
一口メモ
どんな精密な騒音計であっても、内部雑音以下のレベルは測定できません。
ちなみに、計量法に適合した騒音計の内部雑音は 20dB 以下が普通です。
弊所の所有している精密騒音計の場合は、8dB 程度となっています。
測定値が実用的になる目安は、
- 内部雑音+10dB程度:参考値
- 内部雑音+15dB以上:安定した測定
とされています。
つまり、騒音計アプリで 30dB 以下の音が測定できないのは、内部雑音が 30dB 程度ある為で、内部雑音の影響が小さくなるレベルでは、指示値が安定してくるのではないかと推測できます。
環境計量士が騒音計アプリをおすすめする理由
騒音計アプリは精度が悪くて使い物にならない、と言われる場合がありますが、
誤差の傾向や理由が分かった上であれば、かなり実用的である事が分かりました。
また、精度だけではなく、スマホアプリには、計量法に適合した騒音計には無い、大きな利点があります。
それが、”扱いやすさ”です。
計量法適合の騒音計は、専門家が使うことを前提に作られているため、
動特性(Fast/Slow)や周波数補正(A特性/C特性)など、用途に応じて細かく設定できる一方、
選択を誤ると数値の意味そのものが変わってしまいます。
実は、この設定項目の多さは、専門家でも注意が必要なポイントで、
私の場合は、チェック用紙で確認し、動画で設定の様子を記録し、
更には指差し確認「A特性よし!」などする程です。
一方、スマホの騒音計アプリは、一般の方が使うことを想定して、
表示や操作が分かりやすく設計されているものも多く、
設定ミスによる大きな失敗が起きにくいという利点があります。
お試し無料などで使用感を確かめながら、手軽に選べる点も大きなメリットです。
また、騒音計(計量法適合)は精密機器なので、衝撃や水濡れには細心の注意が必要ですが、
スマホアプリは(スマホ本体に依存するとはいえ)
運用の心理的ハードルが比較的低く、気を使わず測定できるメリットもあります。
確かに計量法に適合した騒音計と比べると精度は劣るかもしれませんが、
高価な測定器を誤って操作して得た不確かな100点よりも、
手軽なアプリで得られる“概ね妥当な80点”のほうが、
一般の方が使う状況を考えた場合、十分に価値があると考えます。
まとめ
騒音計アプリは、証明用や取引用として使用することはできません。
しかし、
- 個人が状況を把握する
- 音に対する理解を深める
- 記録を残す
といった目的であれば、使用条件や機種によっては、十分に有意義だと考えます。
計量法適合の騒音計であっても、誤った使い方をしてしまえば、正しい判断はできませんし、むしろ扱いやすさの面では、騒音計アプリの方が有利だともいえます。
騒音計アプリは、騒音に関心を持った方が「測定の考え方」を学ぶうえでも、とても有効な手段の一つだと思います。
私たちのような測定業界にいる人間としては、周波数分析やFFT解析が手のひらで、しかも数万円以下で利用できるのは、まさに夢のようなお話です。(この業界ではこれらの機能を有した機器は数十万・数百万ですから。。)
今後も、アプリや測定技術はどんどん進化していくはずです。
精度についても、様々な状況を考慮した補正により、もっと高い精度になる事も考えられます。
これからのアプリの進化を楽しみにしたいと思います。