騒音被害の現場

騒音トラブルというと、ニュースで取り上げられるような事件性のある事例を想像されるかもしれません。しかし、弊社にご相談いただくケースでは、現在のところ、そこまで危険な状況にまでは至っていないことがほとんどです。 とはいえ、騒音測定が必要になるということは、ご依頼者様にとって、それが極めて深刻な状況であることに間違いありません。

個人のお客様から寄せられる騒音被害のご相談で最も多いのは、集合住宅における隣室間や上下階の騒音トラブルです。集合住宅では、様々なライフスタイルの方々が暮らしているため、生活時間帯が異なるのは当然のことと言えるでしょう。一般的には就寝時間とされる時間帯でも、活動されている方がいらっしゃるのは珍しくありません。そのため、多くの方は、就寝時間帯の多少の物音に対して、寛容に受け止めていらっしゃるのではないでしょうか。それは、同じ建物で暮らす隣人同士、「お互い様」という気持ちで理解し合おうとする社会性の表れなのだと思います。

しかし、そんな穏やかな日常が、何かをきっかけに一変してしまうことがあります。弊社にご相談いただく事例では、これまでお住まいだった方が引っ越され、新たに入居されたタイミングで問題が顕在化するケースが多いように感じます。

当事者間の話し合いで解決できれば理想的ですが、弊社にご相談いただく時点で、既に弁護士を介して調停を視野に入れた話し合いの段階に入っているケースも少なくありません。調停が必要になるまでに事態が悪化すると、もはや当事者間の問題だけでは済まなくなっていることがほとんどです。当事者同士はもちろんのこと、管理組合や管理会社、自治体の相談窓口など、あらゆる手段を尽くしても解決に至らず、長い時間が経過した末に、最終手段として調停を選ばざるを得なかった、ということなのです。

多くの場合、騒音問題が発生してから調停に至るまでには、半年から1年以上の月日が経過しています。この間、絶えず騒音に悩まされ続けながら話し合いを重ねてこられたのですから、そのご心労は察するに余りあります。しかし、これは終わりではなく、解決に向けた取り組みの始まりに過ぎません。つまり、残念ながら、騒音被害はまだ続いていく可能性が高いのです。

さらに被害者を苦しめるのが、社会的な偏見です。 騒音に対して苦情を申し立てることで、逆に「神経質な人」「うるさい人」と見なされてしまう状況は、当事者間だけでなく、関係各所へ相談する際にも起こり得ます。騒音被害に関心のない相手に状況を伝えようとすればするほど、つい声も大きくなりがちで、それがさらにクレーマーのような扱いを受ける要因になりかねません。「気にしすぎだ」「我慢が足りない」、挙句の果てには「あなたが引っ越せばいい」などと心ない言葉を浴びせられ、被害者であるにもかかわらず、コミュニティ内で孤立し、精神的に疲弊し、通院するほどに追い詰められてしまった方々を、私たちは見てきました。

騒音被害の現場では、騒音そのものによる身体的・精神的な苦痛はもちろんのこと、ご近所やコミュニティにおける人間関係にまで深刻な影響が及ぶ問題が起きています。ただ穏やかに暮らしていたいだけなのに、ある日突然、騒音被害者になってしまう。これは、決して他人事ではなく、誰の身にも起こり得ることなのです。